ちょっとばかり高さが足りない防潮壁



 波打ち際近くから眺めた防潮堤工事の様子
 10月13日の昼間、三重県や名古屋からの見学者を案内して浜岡原発の原子力館を訪れると、下地幹郎防災担当相が視察に来ているとかで中電社員が警備にあたり、マスコミの人間が慌しく行き来していた。防潮壁の建設現場などを見て回ったあと原子力館を訪れたそうだが、その日の夕方には焼津市内に場所を移して大臣は記者会見し、運転停止中の浜岡原発について「想定される津波が19メートルという数字が出ているにもかかわらず、防波壁の高さ18メートルで再稼動を申請するのは、理解を得ることはできない」と述べた。 

 浜岡原発の再稼動には、防波壁19メートル以上が条件の一つになると、はっきりと防災担当大臣が発言したのである。記者会見の場に同席していた川勝知事も、「もっともだ」と大臣に同調したと伝えられている。中部電力は、地震による津波の最大高さを15メートルと計算して、18メートルの防波壁を建設している。ところが国は、遠浅になっている浜岡原発周辺では最大19メートルに盛り上がると、被害想定をはじき出したのである。1メートル高さが足りないのだが、継ぎ足せば解決する問題ではない。基礎から造り直さなければいけないのだ。


 今年3月には津波の最大想定は21メートルだったが、今回は2メートル低くなって19メートルと国は言いだした。それでも、高さは足りない。さすがの中部電力も数字に踊らされている感じだが、なぜか今回はお得意の「想定外」という決まり文句が登場しない。こんなときにこそ使用すべきだと思うのだが、事態が深刻すぎて気軽に言葉が口を突いて出てこないのだろう。津波の最大想定高さ21メートルという寝耳に水の数字を突きつけられた直後の今年7月、中部電力は工事の完成を1年間延長した。


 表向きは、「全電源喪失に備えた緊急時用の発電機の工事量が、当初の想定を上回ることが判明したため」としているが、1年後には民主党政権から原発に甘い自民党政権に変わり、そうなると高さが足りないなどと言わなくなるだろうから、防波堤の完成後は一気に再稼動へもっていく考えだろうと、浜岡原発の地元の御前崎市では盛んに噂されている。だが、防災担当大臣がはっきりと高さが足りない点を指摘して再稼動はむずかしいと公言したのだから、政権が変わっても約束は守ってもらわなければならない。しっかりと、監視していくべきだと思う。


 肝心の防潮堤だが、いろんな問題が指摘されている。その中に、厚さ2メートルの防潮壁で大丈夫だろうかというのがある。釜石のスーパー堤防の厚さは20メートルで、半永久的に町を津波被害から守ってくれるだろうと言われていたが、今回の津波で簡単に決壊してしまった。それから、工事の様子を見物した地元民で、津波の第一波で倒壊するだろうと予測している人もいる。「基礎部分は深くて問題なさそうなのだが、枡形に下駄を履かせるように築かれているため、地上に現われる壁面との接点があまりにも少なすぎる。だから接続部分の溶接なりボルトなりが破壊されてしまい、津波の凄まじいエネルギーでたやすく倒壊するのでは」とはその人の弁でした。


 もし倒壊をまぬがれても、浜岡原発の東側には筬川が、西側には新野川が流れている。この二つの河川を遡上した津波が引くときに、防波堤のない北側から浜岡原発の敷地内に流れ込むのは必然である。流れ込んだ海水は防潮堤で堰き止められるから、当然敷地内はプール状態になる。プールの中に原子炉建屋が浮かんでいることを想像していただきたい。恐ろしい光景である。地震で冷却水を原子炉に送り続けている大小のパイプはズタズタになるだろうから(パイプの切断は中電も予測しているようです)、移動式ポンプが活躍することになるのだが、海水に浸かってホースの接続や引きちぎられたホースの補修は果たしてできるものなのだろうか。


 東海地震は、30年以内にマグニチュード8規模で発生する可能性が87%と言われている。東南海地震などと連動すると、マグニチュード9以上になるとも叫ばれているし、もしかする今日、明日にも襲いかかるかも知れない。でも僕個人としては津波被害よりも、地震そのもののほうが恐ろしいと考えている。


 浜岡原発は砂丘の上に築かれているから東海地震が襲えば地盤は沈降し隆起し、原子炉建屋はまともな形で残っていないだろうと考えているのだ。このホームページでも繰り返し訴えているのだが、浜岡原発は信じられないほど弱い地盤の上に建っているからです。中電が宣伝するような硬い岩盤など、どこを捜しても見つからない。それを実際に自分の目で確かめたかったら、防潮堤を築くために出てきた多量の土砂を見たらよくわかります。砂と、そして成人男性の手でたやすく砕けてしまう粘土質の固まりしかないということが、みなさんにもわかってもらえるはずです。


 防潮壁のことをもう少し述べてみることにします。下地防災担当相の発言に関して、御前崎市の市議と昨日の日曜日に電話で長時間話し合った。「これで水野社長やその他の役員の退陣が決定した」と市議は自信満々に語っていた。もし、高さをクリアした防波堤を手前にもう一つ築くとしたら、いままで費やした約1000億円もの大金はドブに捨てたことになり、現首脳陣の退陣は間違いないというのが彼の意見である。今日の中部電力の株価を調べていないが、下地発言で当然下落し、今後も下落し続けるだろう。その結果、次期中電社長は浜岡原発の再稼動を強引に推し進めることができなくなるので、もう再稼動はないだろうと彼は言うのだが・・・・さあ、そうすんなりとうまいこといくのだろうか?


                                           2012年10月15日