労災申請 その2 


 
新野川方面から望んだ浜岡原発、2012・3撮影
 長年の原発労働による放射線被ばくが原因だと考え、僕が磐田労働基準監督署の労災課に労災請求を行なったのが、胃ガンと結腸ガンの手術をした年の2009年11月のことでした。労災申請書を提出して2年10ヵ月後の今年9月27日、やっと結果が出たとして、朝の10時頃に磐田労基署の次長と労災課の課長、係長の3名が静岡県御前崎市に住む僕の元に訪ねて来た。


 原発作業による放射線被ばくでの労災請求の壁は厚いと認識していた。放射線被ばくで死亡したり、後遺症で苦しんでいる名もなき人々は全国的に相当数いるのだが、労災を認められたのは全国的にも7件か、8件しかないそうです。「今回労災請求のあった胃ガン・結腸ガンの発症は、放射線業務との因果関係が認められないという結論となり、不支給決定となったところである」として、僕の場合も請求を却下されたのだった。


 「検討の結果、現時点の国際的な医学的知見の概要は・・・・」として、僕の被ばく線量が100ミリシーベルト以下だということも、労災認定の対象にならなかった理由の一つだと書かれていました。しかし、僕が記憶している基準値は確か50ミリシーベルトだったはず。いつから100ミリに引き上げられたのでしょうか。それとも原発労働者は無知だからということで、この数値を上げたり下げたりしているのでしょうか。100ミリを超える線量を浴びている人に対しては、基準値は150ミリシーベルト以上だと言ってるのかも知れません。


 それから、僕の被ばく線量が100ミリシーベルトに達していないという結論には、異議ありと申し上げたい。伏魔殿のような原子力発電所では、多くの原発作業に携わっている労働者が体験していることなのだが、僕の場合も闇に消えた被ばく線量が相当な量あったからです。つまり、高放射線エリアでアラームメーター(線量計)を自分の体から外して作業したことを指しているわけです。原子炉建屋内で、アラームメーターを外すという行為は明らかに違法なのですが、「放射線量の高い現場で作業する時には、線量計を体から外すように・・・・」と我々一般作業員に命じたのは、元請け会社の監督者だったのです。


 今年の7月、福島第一原発の復旧作業を請け負っていた下請け業者の役員が、作業員に線量計に鉛カバーをつけて作業するように命じたという事件が発生し、話題になりました。多くの作業員が役員の命令に従ったのですが、たった1人だけ、「そんな不正はできない」と異議を唱えた人がいた。すると彼は、即刻解雇されたそうです。


 下請け労働者が上の者の命令を拒否することは、それ相応の覚悟が必要なのです。解雇も覚悟しなければいけない。解雇されたら家族が養えなくなる。だから僕も、管理区域(高放射線エリア)という危険区域内で、体の一部であるアラームメーターを外しないさいという命令に従うしかなかったわけです。このとき闇に消え、記録されなかった放射線量は50ミリシーベルト以上だったと想定されるので、僕は原発労働で実際には100ミリシーベルト以上浴びていることになり、医学的見地からも充分に労災認定される資格を有するのではないでしょうか。


                                          2012年9月28日