中部電力のウソ


 
      佐倉公民館の説明会での中電社員
 中電との闘いの歴史は、ウソとの闘いであった。それほど、中電の話にはウソが多いのだ。たとえば、東日本大震災の前年の2010年の夏は記録的な猛暑だったことを記憶している人は多いと思う。その猛暑の真夏に、浜岡原発の全基が停止していたのに停電は一度もなかったし、節電の呼びかけさえもなかった。中部電力では原発の依存度はたったの15%であり、原発に頼らなくても電力は足りているのだ。ところが福島第一での原発震災以後は、浜岡原発を何としても稼動させたいがために、電力が足りないと偽りあわてて節電の呼びかけを始めた。

 それから、これはある御前崎市議から聞いた話だが、議員が県外の原発の視察に出かけると、必ず中電の社員が先回りして待っているのだという。昨年の10月頃、市長を含めた御前崎市議全員が、鹿児島県にある川内(せんだい)原発に視察に赴いたときも、先回りして待っていたそうだが、その中には、浜岡原発の総合所長の水谷良亮氏の姿もあったという。 


 川内原発は、やらせメール問題で有名になった九州電力の原子力発電所だが、静岡県から視察に来た議員の、「エントツから放射能は出ているのですか?」という質問に対して、案内役の課長クラスの職員は、「濃度はかなり落としていますが、やはり日常的に放射能は出ています」と堂々と答えたそうである。ところが中電の水谷氏は、「それは放射能というよりも、何か別のものだと思う。とにかく、人体や環境に害のあるものは微量も排出していないはずだ」と議員たちにこっそり耳打ちしたらしい。案内役の九電の社員が正直に出ているというのに、あえて否定する根拠とは、浜岡原発では排気塔から放射性物質は放出されていないことになっているので、他の原発といえども日常的に出ていたのでは困るのだ。


 このように、浜岡原発のトップが平然とウソを言うので、中電職員の中にはウソを言う者が多い。福島第一原発の大事故の3ヵ月余り前の昨年12月末、2009年8月11日の駿河湾地震で異常な揺れを起こして1年半停止していた5号機の稼動に向けての説明会が、地元の佐倉公民館で行なわれた。その説明会には私も出席したのだが、中電の森不可止(もりふかし)補修部長が厚顔にも壇上で、「確かに5号機は多少多めに揺れたのですが、故障や異常個所の発生には至りませんでした」と発言したのには、椅子から飛び上がるほど驚いてしまった。


 震度6弱の駿河湾地震のときに5号機は、中電が発表しただけでも50ヵ所以上の異常個所や故障個所が実際に発生したのだから、浜岡原発の幹部社員である森氏が知らないわけがない。このとき公民館には200名強の地元住民が集まっていたが、森氏は佐倉地区の人々を田舎者として完全になめ切っていたのだろう。その約20日後の今年1月15日に、市内の別の公民館で中電と原子力安全保安院による、「5号機耐震安全性に関する市民説明会」が開催された。そこでも森氏は壇上で説明していたが、このとき集まった人々は佐倉地区の住民よりもレベルが高いと読んだせいか、彼の口から、「故障個所は少しも発生しませんでした」などというウソ発言は一度も飛び出さなかった。つまり、相手のレベルに合わせて使いわけていたのである。


 中電社員のウソに関する話では、その他にはこのようなこともあった。先月、横浜から来られた「新婦人の会」のメンバー20数名を原子力PR館に案内したのだが、PR館の女性スタッフに説明をお願いしていたので、私も一緒について説明を聞いた。まず最初に展望台から原発を俯瞰し、その次に1階のフロアに下りて展示品や3号機の原子炉模型の前で説明を受け、地震対策のテレビモニターを眺めた。そのあとメンバーの1人が、「静岡県の川勝知事は、使用済み核燃料の問題が解決するまで稼動は認めるわけにはいかないと言っていますが、その使用済み燃料はどうするつもりでしょうか?」という質問を行なった。女性スタッフがしどろもどろの説明をしているのを見かねたのか、広報グループの茂森課長という人物が突然現われて説明を始めた。


 「使用済み核燃料は、いずれ青森県の六ヶ所村に運ぶ手はずになっています」と彼は言った。それを受けて新婦人の会のメンバーは、「六ヶ所村の高レベル放射線廃棄物貯蔵管理センターは現在、核のゴミの受け入れは行なっていないし、これから先も受け入れる予定はないと聞いていますが・・・・」と言った。川勝知事がこだわっているように、もっとも厄介なのがこの核のゴミの問題だった。原子炉は停止したが、使用済み核燃料が崩壊熱を出し続けているので、常に監視し冷却を続けなければいけない。この崩壊熱が完全に収まるのが、何10年後かもわかっていないのだ。    
浜岡原発PR館

 思いがけぬ強敵の出現に、40代の茂森課長は端正な顔を歪ませ、「現在、燃料プールには6600本ほどの使用済み核燃料があるのですが、以前、浜岡原発ではプールの冷却水をストップさせて、どのぐらい温度が上昇するか実験したことがあります。3ヵ月程度保管されている使用済み核燃料を対象に行なったのですが、水温が50度まで上がったあと、冷却水を循環させなくても温度がそれ以上あがることはありませんでした」と説明した。その口ぶりは、使用済み核燃料の問題などたいしたことではないと、懸命に見学者に印象づけようとしているのが感じられた。


 それまで、100メートルの高さを誇る排気塔から空気しか出ていないという女性スタッフの真っ赤なウソにも沈黙を守っていたし、敷地内に活断層は走っていないとの断言にも口を挟まず、浜岡原発の地層を形成している軟弱な砂岩や泥岩が、話の中で強固な岩盤に変化しても笑ってすませていたが、このいい加減な説明だけは黙っていられなくなり、私は口を開いた。「実際、3ヵ月前まで使用していた燃料が核分裂も少なく、そこまで安定しているなんて信じられないですね。その話はウソでしょう?我々が無知な見学者に見えましたか?」


 そのあと片隅のソファーに1人で座っていると、茂森課長が近寄ってきた。「先ほどの話ですが、3ヵ月というのは間違いでした。4、5ヵ月以上冷却していたものを対象に実験したのです。私の単なる勘違いですよ」と、彼は上目使いにこちらを見て言った。「その話もウソですね。それに、水温が50度までしか上がらなかったという話も・・・・。そうでしょう?」「いえ、決してウソでは・・・・」彼は目を伏せ、唇をかんだ。「現在、チェルノブイリ原発は全基停止しているんですが、事故から25年経ったいまでも崩壊熱を出し続ける核のゴミを監視するために、3500人が働いていると聞いています。ウソは泥棒の始まりって言葉がありますよね。あなたは大会社の社員ですが、見学者を騙し続けるあなたのやっていることは、薄汚い盗人並みですよ」




                                       2011年12月24日