汚染される海と空と、そして人!


 
原発周辺の海域で、ウインドサーフィンに興じる若者たち。
 

 浜岡原発で事故が発生した場合には、特に地盤の弱さが指摘されている5号機1基だけで、300万人近いガン患者が生み出されると想定されている。そして、避難を強いられる人の数は3千万人に及ぶとも、3500万人に及ぶとも考えられている。しかし、事故によって多量の放射能が我々が暮らす社会に放出される以外にも、日常的に放射能はばら撒かれていて、原発周辺で暮らす者は絶えず吸い込んでいるのである。最近、環境中に放出された低レベル放射能の影響が問題視されている。その量はごく微量であり、人体や環境への悪影響はないと中電や静岡県がいくら説明しても、実際に影響がないわけがなかった。


 3、4年ほど前に、イギリスの科学者クリス・バスビー博士は、「人口放射能による被ばくとガン発生の関係は明らかで、ガンは環境病である。低レベルの放射能で起こる影響の存在を政府は商業利益を理由に隠し、真実を攻撃している」と警告している。環境中に放出された低レベル放射能の人体への影響、健康への影響とはどのようなものなのだろうか?中部電力は地域の住民に対して、「浜岡原発は放射能をいっさい排出していません。だから、ご安心ください」と事実の隠蔽に終始してきたが、排気塔から日常的に低レベルの放射能を排出しているのを、最近ではほとんどの住民が知っている。原発のある町で生活している住民がもっとも知りたがっているのは、低レベル放射能が人体に及ぼす影響とはどの程度のものなのか、まさにこのことではないだろうか。


 「JanJanニュース」では、海外の住民被害の例をいくつか紹介していた。その一つの例として、イギリス第二の都市、バーミンガムの西約200キロに位置するスノードニア国立公園内にある原発のことが詳しく書かれていた。その原発は、北ウエールズ地方のスノードニア国立公園内にあるトローズネイズ湖のほとりに建っており、1965年の操業以来、運転に必要な冷却水に湖の水を使ってきた。イギリス国内の、その他の原発は日本同様に海岸線に建てられていて、唯一、内陸部に建てられ湖に冷却水を捨て続けてきた原発であった。2006年、湖周辺で暮らす住民が異常に多くガンになった疑惑がテレビ局の調査で明らかにされた。たとえ放射能の排出は行なわれていても、海に捨てていればよほどのことがない限り国民に知られることはない。しかし、湖という限定された区域内に排出し続けたため拡散することはなく、おびただしい量の放射能を湖の泥土の中に蓄積することとなったのだ。


 老朽化と国立公園内にあることを理由に、1991年に運転を停止したトローズネイズ原発では運転中の大きな事故はなかったそうだが、冷却水の水源用として使用されていた湖は発電所から出る放射能の沈殿池となった。1988年の報告では、湖の底の厚さ30センチまでの中にはプルトニウム、セシウム、ストロンチウムなどの放射能が1トンの堆積物に平均で400万ペクレムも含まれていた。それは、イギリスの法律により管理されるように命じられている低レベル放射性廃棄物の10倍以上の濃度であった。放射能汚染された湖で遊んだり、魚を食べた近隣の住民がガンを発症したり、運転中の全期間を通じて放射能が排出されていたから、大気中に放出された放射能を吸って風下の住人らが被ばくしたのだった。


 現地では、湖の周辺と原発の風下地域でガンにより亡くなる住民が増えた、という噂がずいぶん前から広がっていたらしい。テレビ局のディレクターが、ウエールズの保健機関にガンの発生率について聞いても、患者の個人情報を勝手に見せるわけにはいかないとして情報公開を拒まれた、といったことが記載されていた。だからそのテレビ局は、2005年から戸別訪問して詳しく調べることにしたのであった。その結果、40から50代で病気で亡くなった約半数がガンによって死亡したという驚くべき事実が明らかになった。最近の2、3年は白血病になる子供が増え、16歳で喉頭ガンになった若者もいる。ある主婦は夫と子供をガンで失い、43歳で亡くなった娘は白血病だったという。他の一家は、妻が3年前に乳ガンと診断され、翌年には夫が前立腺ガンと診断されたのだという。


 テレビ局の調査員は、トローズネイズ原発の影響があったと考えられている対象地域の402世帯を訪ねて情報を集め、88%の住民から回答を得たという。その結果、恐ろしいレベルのガン発生率を見いだした。その調査結果を前出のバスビー博士が分析すると、2005年までの過去10年間の発ガン率は、すべてのガンで全国平均の2倍になることが明らかになったのだ。それから、2003年から05年までの3年間は特に50歳以下の女性が大きな影響を受け、乳ガンは全国平均の15倍。60歳以下では4〜5倍だった。その他には、白血病は全国平均の8倍。すい臓ガンは5倍。男性の前立腺ガンは2倍という報告がなされた。湖の魚を食べた人に乳ガンが多く、それに魚を食べた人は、食べなかった人の2倍以上ガン発生率が高かったのだ。ここで発生するガンはあらゆる種類が見られ、急速に進行するタイプのガンが多いのが特徴とのことだった。


 


イギリス南部のヒンクリーポイント原発の風下地域で、乳幼児の死亡率が高い時期があった。原発の風下にあたるスパーン川の河口にある7つの村や町の乳幼児死亡率が、内陸部の町に比べて3倍ほど高かったのだという。原発から危険な放射能が美しいヒンクリーの空と海に放出され、風下の住人がそれを摂取した結果だという報告が出されている。わずかな放射能でも細胞に対する被ばくは大きく、特に乳幼児にとっての影響は計り知れないほど大きなものがあり、異常なほどの死亡率の高さに繋がったのだ。それから、2000年にはこの原発の周辺住民の乳ガンの異常な増加も報告されている。「海が危険な低レベル放射能を運ぶ」とクリス・バスビー博士は警告している。   市役所の近くに建つ「静岡県環境放射線監視センター」


 海が危険な放射能を運ぶとは穏やかではない。わが町にある浜岡原発でも、遠州灘に多量の温排水を放出している。それがために周辺の水温は7度も上昇し、海の生態系も大きく変わったと聞いている。排水口付近で奇形魚が釣れたという報告もあり、見慣れない魚がたくさん集まってきているという噂だ。クリス・バスビー博士の話は続く。「乾燥した暑い日は、海岸に近づかないこと。放射能を含む土ぼこりが風で飛び、呼吸を通じて肺に入るから・・・・」ヒンクリーポイント原発周辺の小児ガンの発生率の分布は、住居が海岸に近いほど高くなると言われている。トローズネイズ湖のように、海底に堆積している泥土が放射能汚染しているのだ。浜岡原発が冷却水を常時放出している海域周辺は年間を通じて風が強く、暑い季節だけでなく冬場だってサーファーで賑わうサーフィンのメッカだ。博士の説だと、健康的にスポーツを楽しんでいる彼らが、もっとも低レベル放射能を浴びる確率が高いということになる。


 「原発に近いリゾート地は最悪のガンの群発発生地」というタイトルのレポートでも、「ヒンクリーポイント原発に近接しているサマーセットの町におけるガン発生率は平均の6倍に達する高さである」と述べられている。調査チームは、ヒンクリーポイント原発から海洋へ排出される放射性廃棄物が海底に堆積され、引き潮によって干潟が露出する際、放射性の粒子が風によって舞い散り、住民によって吸入されるのだと考えている。リバプール大学の上級講師であり、人体組織における毒素の影響についての専門家であるヴィヴィアン・ハワード博士は、「1960年代から私たちは、放射性の粒子が陸地へとやって来るメカニズムを知っている。そして私たちは、今後数百年間この問題について悩むことだろう」とこのレポートで述べている。


 ドイツ政府の最近行なった研究では、原発の立地周辺で5歳以下の子どもが白血病にかかるリスクは、原発と居住地の距離が近いほど増加することを初めて科学的に立証した。研究者らは、小児のガンと白血病の相関関係のはっきりとした証拠が原発の近くで発見されたことを認めたのである。浜岡原発の立地する町でも、原発の周辺では白血病の子供が生まれる確立が高いという話が長い間囁かれてきました。原発のある町で生まれ、その土地で20年余り暮らしていたからという理由で、結婚を断られた女性も実際にいます。結婚相手の親が息子に懇願したと聞いている。白血病を病んだ孫の顔を見たくないから、結婚相手の女性は、原発の周辺以外の土地から選んでくれと懇願された結果です。


 「イギリスやドイツなどで稼動している原子炉と、浜岡で採用している原子炉は根本的に違います」という中電の紋切り型の言い訳が聞こえてきそうです。それから、「浜岡原発では特に安全に注意しています」という言い訳もやめたほうが良いと思う。イギリスの原発も、安全には充分に留意して操業されていたはずだからです。低レベル放射線被ばくによる人体への影響に関して、「一定量までなら害はない」との主張や、「低線量の被ばくは免疫を強め、健康のためになる」といった従来の馬鹿げた俗説は完全否定され、最近の研究では低線量でも発ガンのリスクは充分にあると結論づけています。だから、どんなに微量であっても放射能は危険なのだ。その放射能が、いま現在でも排気塔から放出され続けていて空を汚し、冷却水として使用された水は海に垂れ流され、海を汚しているのです。




                                              2010年12月4日