恐ろしい内部被ばく!



御前崎市のメインストリート、市役所通り。 
 被曝は、人体表面からの被曝である「外部被曝」と、放射性物質などで人体内部が被曝する「内部被曝」に分類されます。人体内に放射性物質が侵入することによって内部被曝が生じるのですが、内部被曝した場合は、体内に沈着した放射性物質が放射線を出し続けることを意味しています。放射性物質が体内に入る経路は、呼吸、飲食、及び皮膚を通じて入る3通りがあります。呼吸によって入る場合は、放射能汚染されたチリなどを吸い込むことで内部被曝します。飲食での場合は汚染された飲食物を摂取するか、汚れた手で食事を摂ったり喫煙または化粧などによって放射能を体内に取り込むことがあります。それから、放射性物質が皮膚表面に付着しただけでは内部被曝とはならないのですが、皮膚の傷口から血管に入ることがあります。 


 内部被曝が生じた場合は、放射線のエネルギーは小さくても人体に対する悪影響は強力であると考えられています。しかし、内部被曝の線量を測定することは極めて難しいとされていて、外部被曝から求めた許容量を内部被曝にも適用できるかというと、これは大きな問題があって決着がついていないというのが実情のようです。なぜなら、外部被曝から求めた許容量をそのまま内部被曝に適用すると、多くの場合「健康に影響ない」となるからです。呼吸によって体内に取り込む放射性物質(チリ)などは、たいていの場合ごく微量だからです。内部被曝の恐れのあった職場で私は働いていたのですが、このあと職場での作業内容や使用していた保護具のことなどを詳しく述べることにします。


 浜岡原発で私が働いていた現場は、以前にも何度か書いたのですが、原発内で出た放射性廃棄物を処理するエリアで、通称「ゴミ課」と呼ばれていました。その現場では、作業員として働くようになった2003年8月から2008年9月に退社するまで作業に従事していましたから、5年間余り働いていたことになります。私たちが仕分け処理する放射性廃棄物の大半は、年に一度必ず実施される1号機から5号機の定検工事の時に出るのですが、私が働くようになった頃には、昭和50年代に出た廃棄物を扱っていました。退社する頃になってやっと昭和60年代のゴミを仕分けするようになったのですが、長期間倉庫内に保管することによって、放射線量の低下という効果を狙っているという話を聞いたことがあります。


 そのような古いゴミは、1メートル50センチ角、深さ約1メートルの金属製のコンテナに入れられた状態で我々の現場に運ばれて来ます。コンテナの蓋を開けると、ビニール袋に入れられた廃棄物が出てきます。ビニール袋で厳重に包まれているのですが、長く保管していたせいでそのほとんどが破れた状態です。内容物の中には水分を含んだものもあり、そのような物の多くはカビが生え悪臭を放っていました。それらを仕分け室に送り、仕分け室内にある仕分け台と呼ばれているテーブルの上で開いて仕分けを始めるのですが、廃棄物の内容物として金属もあればコンクリートようの物もあり、それに可燃性の廃棄物もありました。2007年頃までは社会問題となったアスベスト製品も仕分けの対象となっていて、私たちは実際に仕分けを行なっていたのですが、その年の夏頃から急遽仕分けの対象から外されるようになりました。


 廃棄物(ゴミ)を扱っている性質上、仕分けをする室内には粉じんが舞っていました。仕分け台の上部には、直径30センチほどのアルミ製の筒による換気設備が備えつけられていたのですが、それでも粉じんは舞っていました。私たち作業員は仕分け室の入口で黄服を重ね着し、送気ユニットのついたフードマスクを被り、青靴下の上に更に黄靴下を2枚重ねてはき、手には綿の手袋の上にゴム手袋を2枚はめ、そしてしっかりとテーピングをして室内に入っていました。それによって外部被曝はほぼ完全に防御できたと確信しています。しかし、その危険性が盛んに叫ばれている内部被曝に対しては、作業に従事していた頃から首を傾げたくなるような防御方法を採用していたのです。


 


 以前に書いた「労災認定!」と内容的にかなり重複しているのですが、気にしないで書き続けることにします。私たち作業員は、放射性廃棄物を取り扱う仕分け室に入る時には、入口でビニール製のフードマスクを頭からすっぽりと被ります。そのフードマスクの目の部分には、透明のプラスチックが嵌められていて外部が見えるようになっています。フードマスクには送気ユニットが付いていて、空気がフードマスク内に送られるようになっています。しかし、この空気は酸素ボンベや外部などから安全な空気が送られてくるわけではなく、汚染された室内の空気を取り込むようになっているのです。   
遠州灘からの風が強いので、マキ囲いの民家が多く見られる。


 このフードマスクと送気ユニットは、浜岡原発以外の原子力発電所でも採用されているのだろうと思いますし、過去に何の問題も発生していないという反対意見が聞こえてきそうですが、これを実際に現場で使用していた一作業員の感想としては、これほど好い加減な防護マスクはないと言いたくなるような代物でした。送気ユニットには当然フィルターが取り付けられているのですが、ほとんど役に立っていなかったのではと思っています。作業後仕分け室から出ると、喉がいがらっぽいような錆臭いような違和感をいつも感じていました。それから粉じんのとりわけ多い日には、咳をすると仕分け室で吸い込んだ粉じんが喉から実際に飛び出てきたものでした。それに、アスベスト製品を取り扱った時には、なぜか重ね着した衣服を通して肌にアスベストの繊維が突き刺さり、フードマスクを通過して顔面にも刺さっていました。そんな程度の防護体制ですから、まず間違いなく吸い込んでいたでしょう。


 繰り返し述べるようになるのですが、私たちの作業現場では放射性廃棄物を取り扱っていました。室内の空気が汚染されている場合には、それを除去できるフィルターを有した呼吸保護具を必ず装備しなければいけないのですが、汚染に対応した保護具を使用していたとは考えられないのです。おそらく、コスト優先で採用されたのではないでしょうか。それから、いつも気になっていたのですが、室内の粉じんを除去する目的で仕分け台の上に設けられた換気の排出口は、その室外の別の作業者のいる通路に設けられていました。放射性廃棄物を取り扱う仕分け室の汚染された粉じんが作業者のいるエリアに向けて放出されていたのですが、このことも大いに問題ではないかと考えています。


 内部被曝によって放射性物質を体内に取り込んだ場合は、長期的、あるいは永続的に体の内側から放射線を浴びることになります。それによって遺伝子が傷つけられ、ガンなどを誘発すると言われています。私自身、昨年(2009年)5月に大腸にガンが見つかり、6月に浜松医大病院で手術を行ないました。原発内で作業員として働いている時には、内部被曝の恐ろしさに対する認識がほとんどなかったのですが、実際にガンに侵されてみて初めてその恐ろしさがよくわかりました。私の体内に巣食ったガンが、原発での作業による内部被曝によるものだと実証するのはとても困難なことだろうと思っています。でも私自身は、放射性のチリを体内に繰り返し取り込んだことが、ガン発症の原因になったと理解しているのです。




                                             2010年3月6日