中電のウソ


 その1 排気塔から出ているのは本当に空気だけ?



3号機の排気塔と、右側の建物は1、2号機建屋。 
 浜岡原発の正門わきにある「原子力PR館」は、展示物の内容が豊富で家族で楽しめるということもあり、土・日曜日に限らず平日でも多くの一般客で賑わっている。ある家族連れがこのPR館を訪れ、1階の展示物を見物して回ったあと、エレベーターで最上階のスカイラウンジまで上がった。そこには、中学生20名ほどと引率の先生らがいて、原子力発電所を見下ろしながら案内役の女性の説明を聞いていた。そのあと、1人の女生徒が案内役のコンパニオンに、「あのエントツからは煙は出ていないみたいですが、あそこからは何が出ているのですか?」とエントツを指差しながら質問した。すると、案内役の若い女性は、「あそこからは空気が出ているんですよ」と答えたそうです。 
 

 確かに空気も出ているかも知れませんが、エントツから排出されているのはそれだけではないのです。もっと恐ろしい、人体にとっても環境にとっても有害なものが出ているのです。おそらくマニュアルというものがあって、20歳代のPR館のコンパニオンは、もしこう質問されたらこのように言えと、中部電力から教えられたとおりに答えたのでしょう。だから、彼女たちに罪はありません。罪があるのは、嘘を言えと教えた中電の社員たちです。


 エントツの正式名称は排気塔と言い、浜岡原発では100メートルの高さを誇っています。まったく無害な空気を排出させるために、100メートルの排気塔は常識的に考えても必要ないはずでして、実は、ここからは窒素が大量に放出されているのです。この窒素には放射能が含まれています。この放射能という毒物を風に乗せて拡散させてしまう目的で、あんなに高く建てられているのです。以前は風向きを考慮して、陸から海側への風が吹いている時だけ排出していたのですが、現在では中電側のそんな配慮もなくなり、いつでも構わず放出しているそうです。つまり、浜岡原発周辺の人々は、24時間、放射能を浴びながら暮らしているのです。


 


 ごく微量であり、環境や人体への影響はないと中電側は言いますが、放射能が原因だと疑われるさまざまな病に住民は苦しめられています。私が通院しているクリニックの医師が言っていましたが、ガン(癌)を患う人の数は他の地域、たとえば同じ静岡県内の浜松や磐田なんかに比べるとはるかに多いそうです。甲状腺をわずらう人の数は、他の地域に比較して浜岡周辺では8倍から10倍くらい多いと聞いたことがあります。8倍から10倍とは凄い倍率だと思いませんか。因果関係がはっきりしているわけではないと中電は苦しい答弁を続けていますが、放射能によってガンなどの発生率が増加することは、いまや全世界の常識となっています。   
 原子炉の模型を見て電気ができるまでを学ぶ子供たち。


 中部電力浜岡原子力発電所が採用しているのは沸騰水型の原子炉です。わかりやすく説明しますと、原子炉の中でウランを核分裂させ、その時に発生した熱で水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回転し電気を作っています。原子力と聞いただけで難しいものとして捉えがちですが、実際に原子力発電でやっているのはお湯を沸かしているだけです。300度以上の熱水ですが、ヤカンでお湯を沸かしているのと同じ原理だと理解してもらって結構です。電気をつくる仕組みは火力発電とまったく同じであり、発生した蒸気でタービンを回し、発電機で電気を起こしているのです。


 火力発電が石油や石炭を燃やし、そのエネルギーを利用しているように、原子力発電はウラン燃料を燃やし、核分裂の連鎖反応を起こさせて発生した熱エネルギーを利用しています。物が燃えれば地球温暖化の原因として盛んに騒がれている二酸化炭素や、あるいは灰が生じます。ウランを燃焼させると二酸化炭素は発生しないのですが、もっと厄介なものが誕生する。それが死の灰と呼ばれている放射性廃棄物です。別の言い方をするなら、この死の灰を生み出さずに核分裂を起こすことはできないのです。


 原子力発電所では、発電するために人工的に核分裂を起こさせ、その時に発生した放射能が微量ながら常時排気塔から排出されています。それに沸騰水型の原子炉は、冷却水が直接燃料棒と接しているため、冷却水が放射能汚染されるという欠点がある。つまり、加熱した原子炉を冷やすために絶え間なく海水が汲み上げられているのだが、冷却水として使用されたあと海に捨てられる温排水にも放射能が含まれていることを意味しています。この放射能を含んだ温排水の排出量は毎秒数10トンです。我々が無関心であったために、御前崎市の海も空もすっかり汚染されてしまっているのです。